【コラム】村上龍「オールド・テロリスト」を読んだという話し

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こんにちは。渡辺カケルです。2.3日前から読み始めた小説「オールド・テロリスト」の感想文です。暇つぶし程度にどうぞ。

村上龍の小説に出会ったきっかけ

初めて触れたのは、とにかく時間だけは有り余っていた学生時代だった。図書館で貪るように小説を読んでいた時に、なんとなく借りたのが「コインロッカーベイビーズ」だった。この小説には衝撃を受けた。官能的な描写はもちろんだが、特に文章が持つリズムに夢中になった。アマゾンかどこかの商品レビューで誰かが、「ロックのビート感」というような表現をしていたが、確かにそれに近いなという印象を受けた。そのほかに小説内に出てくる音楽(主人公が愛聴する音楽)の趣味が自分と似ていたというのも好きになるきっかけだったし、(例えば、ドアーズやベルベットアンダーグラウンドなんかが出てきていた気がする。)とにかく思春期に特にため込まれる行き場のないエネルギーみたいなものに似たものがこの小説にはあってそこにシンパシーというか共感を覚えた気がする。そしてこの次に借りたのが「限りなく透明なブルー」で、ジャケ買いならぬタイトル借りだった。村上龍さんの小説には、ぎらぎらした炎天下の下の青のイメージがずっとある。

「卵と壁」の例え話を少し

「卵と壁」の話しを知ったのは少し前だった。同じ村上だが、これは村上の春樹さんがエルサレム賞を受賞した時のスピーチの中で語られた例え話であり、ここでは卵は個人を指し、壁は人間社会を構成するシステムを指している。その圧倒的な大きさの壁の前に個人が犠牲になることが実際に起きうる社会の中で、個人の側に立って小説を書くことで警鐘を鳴らし、個人に危機が迫っていることを知らせる役目があると言っている。

「オールド・テロリスト」の話し

「オールド・テロリスト」の話題に戻る。やはりリズム感が良いのか、あっという間に読み終わった。身も蓋もない話しだが、上の例えで言うと、最後は壁に打ちつけられていとも簡単に卵は割れてしまうのだが、「コインロッカーベイビーズ」を読んだときに感じた爽快感を味わうことはできる。また現実を覆う閉塞感や、病んだ若者たちの描写はリアリティがあり楽しめた。この物語にはおおまかに、ひとつは壁(社会システム)、それと卵(主人公)、これに加えて卵が集まって作るテロリスト集団が出てくる。主人公は50代半ばで職と家族を失い、社会のシステムから外れた個人で、テロリストの側にも、壁の側にも加われずに終始翻弄される話しである。テロリスト達は社会システムの中で財産も地位も確立した人のみで構成されており、生きる気力を失くした若者を利用して自爆テロを慣行する。この中で弱者として描かれるのは、主人公と無気力な若者であり、最後まで弱者は弱者として描かれて終わりなので、なんとも救いようのない話しではある。テロリスト集団は金を持った老人たちで、社会的な立場のある人が動き出さない限りは、この国を変える希望は残されていないというメッセージとも受け取れる。

元気な老人って確かにいるよなと思った。土木関係の仕事をしていた時にも70歳くらいのおじいちゃんが肉体労働に従事して現場でバリバリ働く姿をみてきた。この小説が発信する一部のメッセージを都合よく解釈すると、私を含めた若者世代は老人と呼ばれる世代から学べることがまだたくさんあるのではないかということ。

若者世代の希望について

若者が元気を取り戻すチャンスはあるのだろうか。若者が元気だった時代はいつだろうか。バブルのころだろうか。もっと少し広く戦後の硬度経済成長期からバブルくらいまでかだろうか。経済の成長が止まったいま、資源がない日本で経済的な豊かさを享受することは難しい。そうなると今後元気を取り戻すこと(経済的に恵まれること)は見込めない(もちろん例外はあるし、普通に働いてもという意味において)。SNSやニュースサイトを見ていてると世の中の流れは、「オールド・テロリスト」のように根本から国を変えるというよりは、自分が変わっていく流れにあると思う。ミニマリストという言葉が浸透してきたように、モノに囚われず、お金にも縛られずに自分の好きなことをして生きるという選択肢が残っている、それが若者世代の希望の一つになっているように思う。

希望という言葉をキーワードとして話しを広げると、電通の新入社員自殺の事件以来、私自身の感覚では完全にこれまで当たり前だった働き方に期待することができなくなったことを実感した。電通は誰もが知っている会社で、入社できればクリエイティブで面白い仕事ができ素晴らしい未来が待っている。これは結果的に思い込みであったわけだし、誰もが入社できるわけではないのだけど、そういう会社勤めの究極の理想が先にあったこと、それが若者を会社勤めに進ませる原動力にもなっていた。しかしそれが無くなった以上、なるべくなら会社に捧げる時間を短くして、自分の時間を確保したいという思考になるのは当たり前である。会社に依存できないという意識は私の周りだけでも結構な割合で持っている気がするし、新入社員の意識調査では給料よりも休暇を重視しているという回答が増えていることや、「自分ファースト」という言葉が出てきたことも含め、いまはそういう流れになっているのだと思う。

あとがき

「コインロッカーベイビーズ」で味わった「ロックのビート感」をもっと求めているし、あのギラギラした炎天下の下の青い景色が見たい。それを今の村上龍さんに求めるのは間違っているかもしれないけど、それを期待してしまっていた。技巧的になった感じはするけど、色彩はなく、ジタバタする「焦燥感」をあまり感じなかった。そして結局なにも解決しなかったのが少し残念だった。ただ、現代の雰囲気を客観的にとらえているので、「閉塞的」な日本で生きていることに慣れてしまっている自分が今後どのように生きていくべきかを考えさせられた。頼るべきは会社などではなく、自分以外にあるわけはない。

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渡辺カケル音楽家/表現者/詩人/生活者

投稿者プロフィール

渡辺カケル
1990年札幌市生まれ
歌手/ギター奏者/詩人/表現者/コラムニスト/メガネ。
好きな食べ物:さんまの塩焼き
好きな飲み物:緑茶
趣味:ラジオを聞くこと、ほか探し中

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